世の中の多くは「虚構」で成り立っている
~町工場の視点から見えてきたこと~
有限会社溝口製作所 代表取締役 溝口
弊社は旋盤とマシニングセンタで金属加工をする、ごく普通の町工場です。
日々のものづくりの中で、ふと気づいたことがあります。
私たちが「当たり前」と思っている社会のほとんどの仕組みは、実は「実体がない虚構」で成り立っているのではないか、と。
1. 会社という存在自体が虚構
「有限会社溝口製作所」はどこにいるのか?
建物でも機械でも私でもなく、法務局の登記簿に名前が載った瞬間にだけ存在する「架空の人格」です。
2. 赤信号で止まるのも虚構
物理的には赤でもアクセルを踏めば進めます。
それでも止まるのは、みんなが「赤=止まれ」を信じているから。
(みんなというのは、運転手や取り締まる警察、法律を作った議会の人たち、司法など、みんなです。)
3. お金の価値も100%虚構
金と切り離された(第2時ニクソンショックによる、ブレトン・ウッズ体制の終焉)今の円やドルは、ただの紙と数字。
80億人が信じているから価値があるだけです。
(第2次ニクソン・ショック(ドル・ショック)は、1971年8月15日に発表された、米ドル紙幣と金との兌換一時停止を宣言し、ブレトン・ウッズ体制の終結を告げた新しい経済政策をいう。)
4. 法律・国境も共同幻想
国会で決めた、紙に書かれた文字(=法律、条例などのルール)を守らなければならないと多くの人たちが信じているから、社会が回るのです。
5. 「長幼の序」も立派な虚構だった
日本で当たり前とされる「年長者を敬え」という考え方も、2500年前に孔子が提唱した「礼」の一部にすぎません。
生物学的には、年長者とは「ただ先に生まれただけの人間」です。
初対面でその人が本当に尊敬に値するかどうかは分かりません。それでも私たちは無意識に敬語を使い、頭を下げます。
工場でも「先輩だから」「歳が上だから」と理不尽な指示に従う場面は少なくありません。
6. 虚構を信じない生き物は自由だ
鳥や虫は国境など眼中になく、自由に空を越えていきます。
犬はお札を見ても「ただの紙」としか認識しません。
彼らは人間が作り上げた虚構を一切信じていないからです。
私たち人間だけが、目に見えない線(国境)や、ただの紙(お金)に縛られ、
「年上だから」「会社だから」「法律だから」と自分を縛って生きています。
最後に ― 虚構を信じるからこそ、人類は発展した
歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』でこう言っています。
大規模な人間集団が協力できる唯一の方法は、
共通の神話・物語・虚構を信じることだった。
お金、国家、企業、人権、国境、長幼の序……
すべて人類が作り上げたフィクションである。
しかし、これらの虚構を信じる能力こそが、
ホモ・サピエンスを地球の支配者にしたのだ
私たちの町工場も、法人・お金・納期・「先輩を敬え」という無数の虚構の上で成り立っています。
虚構だと分かっていても、それを信じ、守り続ける限り、
機械は動き、社員の生活は守られ、お客様に製品を届けられます。
だから私は今日も、
「見えないものを信じる力」を大切にしながら、
ものづくりに真摯に取り組んでまいります。







