優秀な人材を欲する経営者のパラドックス
~業務の属人化を避けつつ、組織を強くするには~
こんにちは。有限会社溝口製作所 代表取締役の溝口敬悟です。
弊社は愛知県丹羽郡扶桑町に拠点を置き、金属や樹脂の旋盤加工・フライス加工を専門とする小さな町工場です。創業から数十年、精密部品の加工を通じてお客様を支えてまいりましたが、小さな会社ゆえに、人材の質がすべてを決めることを痛感する日々です。
今日は、経営者として長年胸にしまい込んできた、ある矛盾について書いてみたいと思います。それは、「頭がよくて能力が高い優秀な従業員が欲しいのに、業務を属人化させたくない」という、永遠に解けないパラドックスです。
1. 優秀な人材が欲しいのは当然のこと
誰だって、優秀な人を欲します。
頭が切れて、技術が高く、すぐに戦力になる人。入ってくれれば生産性が上がり、新しい仕事が取れ、会社は確実に前に進む。そんな人材がいれば、経営者はどれほど安心できるでしょうか。
2. 優秀な人が活躍すると、仕事は属人化する
しかし、そこに罠があります。
優秀な人は短期間で業務を極め、独自の工夫を加えて圧倒的な成果を出す。だからこそ、その仕事は「その人しかできないもの」になってしまう。
ノウハウは頭の中にだけ。マニュアルは作られない。他の人は近づきにくい。
その人がいなくなれば、すべてが止まる。休めば穴が開き、辞めれば会社は途方に暮れる。そんな恐怖が、静かに忍び寄ります。
3. 属人化を防ぐために、優秀な人に改革を託す
そこで私たちは、優秀な人に期待してしまうのです。
「あなたなら、組織を強くできるはずだ」と。
業務の標準化、マニュアル作成、後輩の育成、ナレッジの共有……。優秀な人だからこそ、これらを短期間で実現してくれると信じて。
一時的には効果が現れます。会社は少しずつ、その人に依存しなくても回るようになる。
4. 改革が進めば、優秀な人の「特別」が薄れていく
そして、ここにパラドックスの本質があります。
組織が整い、誰でもできる仕事が増えれば増えるほど、その優秀な人の存在価値が、相対的に薄まっていく。
かつては「あなたがいなければ回らない」と言われていた人が、「あなたがいなくても回る」存在になってしまう。
本人も気づくでしょう。「自分の居場所が、少しずつ狭くなっている」と。
最悪の場合、その人は静かに去っていきます。新しい挑戦を求めて、より自分を必要としてくれる場所へ。
優秀な人を入れて活躍してもらい、属人化を防ぐために改革させたら、今度は自分が不要になる。これが、私たち中小企業経営者が繰り返し直面する、哀しい矛盾です。
どうすればよいのか……
正直なところ、完璧な答えは見つかっていません。
- 優秀な人の役割を常に「次の挑戦」にシフトさせる
- 育成を本人の評価にしっかり結びつける
- ナレッジ共有を組織全体の文化にする
- 経営者自身が定期的に対話し、居場所を再設計する
こうしたことを一つ一つ積み重ねてきましたが、それでも完全に防げるわけではない。優秀な人ほど、組織が整うと同時に「次」を求めるものです。
結局のところ、このパラドックスは、永遠に解決しない矛盾として、私たちのそばにあり続けるのでしょう。
組織は人で強くなり、仕組みで守られる。でも仕組みが整えば、人は居場所を失うかもしれない。
この哀愁を帯びた矛盾と、経営者は向き合い続けなければならない。
それが、中小企業の宿命なのかもしれません。
皆様の会社では、どう向き合っておられますか?
同じように胸にしまい込んでいる方がいらっしゃれば、いつかお話ししてみたいと思います。
有限会社溝口製作所
代表取締役 溝口 敬悟
愛知県丹羽郡扶桑町高雄郷東231番地















