最適化しすぎるとみんな困る?
アメリカに軽トラを導入した場合のシミュレーションから考える

2025年12月、トランプ大統領が「TINY CARS(軽自動車・軽トラ)をアメリカで作っていい」と宣言した。

消費者目線では最高のニュースだ。
「近所の買い物や通勤なら800万円もする巨大V8トラックじゃなくても、軽トラで十分じゃん?」
安いし、燃費はバツグンだし、駐車も楽。

でも、ちょっと待ってほしい。

「みんなが一気に最適化したら、経済はどうなる?」

今回は極端なシナリオでフェルミ推定してみた。

シナリオ:フルサイズピックアップを買う予定だった人の50%が軽トラに乗り換えたら?

対象:年間約320万台のフルサイズピックアップ市場のうち、160万台が軽トラに置き換わる

項目現状(F-150など)軽トラに置き換え後差額(年間)
平均車両価格$62,000$18,000−$44,000/台
新車販売金額への影響約992億ドル約288億ドル−704億ドル
年間ガソリン消費(1台)675ガロン270ガロン−405ガロン/台
ガソリン販売金額への影響−約214億ドル

新車市場全体の売上が約7~8%、ガソリン売上が約5%減る計算になる。

でも、これだけじゃない。連鎖する「効率化の罠」

効率化のメリット vs 経済全体への副作用

項目個人にとってのメリット経済全体に起きること
車両価格3分の1で済む自動車メーカーの売上激減 → 工場閉鎖・失業
ガソリン代年間数万円節約石油会社・ガソリンスタンドの売上減 → 失業
修理・メンテ安くて故障少ない修理工場の仕事がなくなる
保険料車両価格安い → 保険も安い自動車保険業界の売上激減
ローン借入額が減る銀行の自動車ローン利息収入が激減
税収登録税・ガソリン税減 → 道路整備予算縮小

全部合わせると、年間1,500~2,000億ドル規模(GDPの0.6~0.8%)の需要が消える計算になる。

これ、実は昔から知られているパラドックスだ

  • 節約のパラドックス(Paradox of Thrift)
    「みんなが節約すれば国は豊かになる」→ 実は逆で、総需要が消滅して不景気になる
  • 日本の90年代以降
    軽やコンパクトカーばかりになった → 新車単価下落 → 自動車関連雇用・税収減 → 地方経済ジリ貧
  • 大恐慌の教訓
    みんなが貯金に走った結果、経済が死んだ

結論:最適化は「ほどほど」が一番経済に優しい

個人レベルでは「安くて燃費の良い車」に越したことはない。
でも社会全体で「みんなが一気に最適化」すると、
お金が回らなくなって、みんなが貧乏になる。

だからこそ、これまで政府や業界は意図的に「大きくて高い車」を保護してきた。

トランプが軽自動車を本気で解禁したら、
「消費者にとっては天国」
「デトロイト・テキサス・石油業界にとっては地獄」

これぞ効率化の罠の本質だ。

最適化は素晴らしい。
でも「みんなが同時に最適化」したとき、
資本主義は意外と脆い。

2025年12月9日 執筆
※数値は2024-2025年実績に基づくフェルミ推定であり、実際の影響は政策内容や市場反応により大きく異なる可能性があります。