町工場の未来を切り開く人材採用と組織のあり方
こんにちは、有限会社溝口製作所の社長、溝口です。
私たちのような小さな町工場は、日本のものづくりを支える重要な存在ですが、人材採用には大きな課題がつきまといます。今後、少子高齢化がさらに進む日本では、若くて有能な人材を採用することがますます難しくなります。特に私たちのような零細企業にとって、こうした人材を確保することは「できなくて当たり前」の時代がやってきます。では、そこで悩み続けるべきでしょうか? 私はそうは思いません。悩むのではなく、町工場ならではの視点で、どんな人材を採用し、どう育て、どんな組織を作るかを考えることが大切です。今日は、私たちの採用戦略と組織のあり方についてお話しします。これを読んで、「町工場で働いてみたい!」と思ってくれる人が一人でも増えれば嬉しいです。
1. 若くて優秀な人材は大企業に流れがち
ものづくりの世界で、若くて優秀な人材を採用したいと思うのは、どの企業も同じです。しかし、現実は厳しい。大学や専門学校を卒業したばかりの優秀な若者は、大企業の求人に目を奪われがちです。大企業は安定した給与、充実した福利厚生、知名度やブランド力を持っています。これに抗うのは、私たちのような零細町工場にとって簡単ではありません。
例えば、機械工学や製造業に興味がある学生がいたとしても、大手企業から内定が出れば、そちらを選ぶのは自然な流れです。彼らにとって、大企業は「安心の選択肢」に映るのでしょう。結果として、私たちのような町工場に残されるのは、大企業が選ばなかった人材である確率が高くなります。
2. 町工場に残された選択肢とは?
では、町工場は「大企業の残り物」を採用するしかないのか? そんなことはありません。むしろ、この状況を逆手にとって、私たちならではの強みを活かした採用戦略を考えるべきです。大企業が見逃した人材の中には、実は私たちの現場で輝く可能性を秘めた原石がたくさんいます。
大企業が求める「優秀さ」は、学歴や標準化されたスキルに基づくことが多いですが、町工場の現場ではもっと多様な能力や資質が求められます。ものづくりへの情熱、柔軟な発想力、現場での問題解決力、そして何より「やってみたい」という意欲。これらは履歴書や面接の点数だけでは測れません。私たち町工場は、大企業のような華やかな看板はありませんが、だからこそ「人」そのものを見ることができます。
3. どんな人材を採るべきか?
では、具体的にどんな人材を採用すべきか? 私たち有限会社溝口製作所では、以下のような方を積極的に採用したいと考えています。
(1) 業界未経験でも「素養」のある人
まず、業界未経験でも当社の事業に対して素養のある人を歓迎します。「素養」とは、ものづくりに対する好奇心や、未知のことに挑戦する意欲、そして私たちの価値観やビジョンに共感してくれる姿勢です。例えば、機械や工具を見るとワクワクする人、細かい作業が好きな人、ものを作り上げる達成感を味わいたい人、機械工学はわからないが、プログラミングの経験があったり、理系科目が得意で論理的思考能力のできる人、パソコンの操作が得意な人。こうした気持ちを持っている人なら、経験がなくても十分に活躍できます。
実際、過去に採用した社員の中には、製造業の経験がゼロだった人もいます。例えば、ある社員は元々コンビニの店長として働いていましたが、ものづくりへの憧れを胸に当社に入社。最初は工具の名前すら知らない状態でしたが、今では複雑な金属切削加工を任せられるまでに成長しました。彼の「やってみたい」という熱意と、素直に学ぶ姿勢が、現在の活躍につながっています。
(2) 同業他社を退職した人
次に、同業他社を退職した人も積極的に採用したいと考えています。こうした方は、すでに製造業の現場を経験しているため、基本的なスキルや知識を持っていることが多いです。しかし、なぜ退職したのか? その理由にこそ、私たちのチャンスがあると考えます。例えば、前の職場で「人間関係が合わなかった」「もっと自由に働きたかった」「自分のアイデアを活かしたかった」といった理由で辞めた人がいるかもしれません。
私たちは、そうした人たちが「ここなら長く働きたい」と思えるような会社の雰囲気や制度を整えることに力を入れています。具体的には、心理的圧迫の少ない環境づくりです。上下関係の厳しさや過度なプレッシャーを排除し、社員一人ひとりが意見を出しやすく、安心して働ける職場を目指しています。例えば、定期的に社員同士のコミュニケーションの場を設けたり、社長である私自身が現場に出て、社員と気軽に話す時間を大切にしています。こうした環境が、経験者にとって「次の挑戦の場」として魅力的に映ると信じています。
(3) いわゆる「コミュ障」的な人も大歓迎
さらに、いわゆる「コミュ障」と呼ばれる人も、私たちの金属切削加工の現場には向いていると考えています。町工場の仕事は、営業やプレゼンのような華やかなコミュニケーションよりも、集中力や細かい作業へのこだわりが求められる場面が多いです。例えば、精密な部品加工では、一つのミスが大きな影響を及ぼします。そんなとき、黙々と作業に没頭できる人、細部にまで気を配れる人は、まさに宝物です。
もちろん、チームワークも大切ですが、必ずしも社交的な性格である必要はありません。自分のペースでコツコツと努力できる人、ものづくりに真剣に向き合える人であれば、私たちの現場で輝けるはずです。実際、寡黙だけど仕事に真剣な社員が、難しい加工を成功させてお客様から感謝されたこともあります。そんな瞬間を見ると、「この人を採用してよかった」と心から思います。
4. 町工場の組織はどうあるべきか?
こうした人材を採用するなら、私たちの会社組織もそれにふさわしい形で進化する必要があります。特に、以下の2点を重視しています。
(1) 業界未経験でも戦力化できる教育システム
町工場が未経験者を採用するなら、しっかりとした教育システムが不可欠です。例として、マクドナルドのような企業を見てみましょう。彼らは高校生のアルバイトでも、短期間で店舗運営に貢献できる人材に育て上げます。その秘訣は、標準化されたマニュアルと実践的なトレーニングです。私たちもこれに学び、未経験者がスムーズに戦力化できる仕組みを整えています。
例えば、入社後はベテラン社員がマンツーマンで指導し、工具の使い方や機械操作の基礎から丁寧に教えます。また、作業手順を簡潔にまとめたマニュアルを用意し、誰でも同じ品質で仕事ができるようにしています。さらに、定期的な勉強会や外部の技術研修を取り入れ、社員が最新の技術や知識を吸収できる機会も提供しています。こうした取り組みを通じて、未経験者でも数ヶ月で基本的な作業をこなせるようになり、1~2年後には一人前の職人として活躍できることを目指しています。
(2) 「ハズレ」だと思われた人材をチャンスに変える
たまたま現在弊社に所属している皆様は優秀な人ばかりですが、もし、一般的に言って「能力が低い」「ハズレかもしれない」と思われるような人材を採用してしまったとしても(犯罪性向があったり、誠実さのかける人物は採用時に落としますが。)、それは私たちにとってチャンスだと考えます。なぜなら、そうした人を数年かけて利益を生み出せる人材に育て上げられれば、どんな人材が来ても対応できる組織になれるからです。
例えば、最初は作業スピードが遅かったり、ミスが多かったりする社員がいたとします。でも、その人が「ものづくりが好き」「もっと上手くなりたい」と思っているなら、時間と指導で必ず成長します。私たちの工場では、失敗を責めるのではなく、「次はどうすればうまくいくか」を一緒に考える文化を大切にしています。実際に、最初は自信がなさそうだった社員が、数年後に複雑な加工を任されるようになり、チームのリーダーになった例もあります。
この「育てる力」こそ、町工場の強みです。大企業では、即戦力を求めがちですが、私たちは時間をかけて人を育てることで、会社全体の底力を上げていきます。それは、社員にとっても「自分が必要とされている」と実感できる環境につながります。
5. 40代以上の未経験者や高齢経験者も積極活用
少子高齢化が進む中、若手だけに頼る採用戦略では限界があります。だからこそ、私たちは40代以上の未経験者や高齢の経験者の中途採用を積極的に活用すべきだと考えています。
40代以上の未経験者は、人生経験や社会人としての基礎スキルを持っていることが多く、ものづくりに対する真剣な姿勢があれば、十分に戦力化可能です。例えば、異業種から転職してきた40代の社員が、持ち前の責任感と粘り強さで、短期間で精密加工の技術を習得した例もあります。彼らは、若手とは異なる視点や落ち着きをもたらし、チーム全体のバランスを良くしてくれます。
また、高齢の経験者も貴重な戦力です。長年の現場経験を持つ方は、技術やノウハウを若い世代に伝える役割を担ってくれます。たとえ体力的に若い頃ほどのパフォーマンスが難しい場合でも、品質管理や指導の役割で大きく貢献してくれることがあります。私たちの工場では、年齢に関係なく、意欲と能力を活かせるポジションを用意しています。
6. 町工場の未来を一緒に作る仲間へ
私たち有限会社溝口製作所は、規模は小さくても、日本のものづくりを支える誇りを持っています。大企業にはない、現場のリアルなやりがい、仲間との絆、そして自分が作ったものが世の中に出ていく喜び。それが、町工場の魅力です。
もし、あなたが「ものづくりをやってみたい」「新しいことに挑戦したい」「自分に合った職場を見つけたい」と思っているなら、ぜひ一度、私たちの門を叩いてみてください。経験や学歴、年齢、コミュニケーションの得意不得意よりも、あなたの「素養」と「やる気」を私たちは大切にします。未経験でも、同業他社を辞めた方でも、40代以上の方でも、どんな背景を持っていても、私たちの教育システムと温かい職場環境で、きっと成長できるはずです。
一緒に、町工場の未来を切り開いていきましょう!
有限会社溝口製作所 社長 溝口